「まずは繰上げ返済」の大誤算
抱えている住宅ローンを早く返し終えたい!
と、繰り上げ返済に励んでいる人は少なくない。
繰り上げ返済とは、毎回の決まった返済のほかに、
先々の返済予定分を前倒して返済することである。
返済期間は変えずに以後の返済月額を軽減させる返済額軽減型と、
毎回の返済額は変えずに返済期間を短縮する返済期間短縮型がある。
繰り上げ返済を急ぐ人が多いもっとも大きな理由は、
繰り上げ返済しなければ定年後もローンが残ってしまうというものだ。
35歳で35年返済のローンを組めば、完済は70歳。
定年までに完済させるためには、たしかに期間短縮型の繰り上げ返済が必要となる。
しかし35年もの長期で金融機関が資金を貸してくれたということは、
金融機関から超長期の信用を与えられたことと同じ。
これを「期限の利益」といい、
返済期間を短縮することは、期限の利益を放棄することにもなる。
その意味では、当初から定年までに完済できる短い期間でローンを組むことも、
期限の利益を最大限利用していないことになる。
また住宅ローンを組む際には「団体信用生命保険」に加入する
(一部のローンでは任意加入だが大部分が加入)。
債務者が死亡または高度障害に陥った場合に残債額相当の保険金がおり、
以後の返済が不要になる保険だ。
縁起でもないが、繰り上げ返済を急いで残債を減らしても、
命を落とすようなことがあれば徒労になりかねない。
実際、家族で節約して繰り上げ返済して完済し、
これからはレジャーを楽しもうと思っていた矢先、
大黒柱が死亡してしまった。という話もある(確立は低いがこの可能性は誰しもが有する)。
一方で繰り上げ返済には利息軽減効果がある。
繰り上げ返済した分は元金の返済に充てられるため、
そこにかかるはずの利息がなくなるのだ。
しかし実際にこの経済的効果が現れるのは、利息を払うべき時期になってから。
繰り上げ返済した時点ではなく、先々、経済的効果が生じるということで、
単純に数字で損得を語ることはできない。
最も危惧すべきは、繰り上げ返済によって手元資金が目減りするリスクだ。
手元資金がないところに、教育資金や車の買い替え、
自宅の修繕などの必要が生じると、別途、ローンを組むことになりかねない。
いずれも住宅ローンより金利は高い。
低利の住宅ローンの返済を焦るあまり、高い金利のローンを借りることになっては本末転倒だ。
また、これらのローン(リフォームローン、教育ローン、カーローン等々)には
団体信用生命保険が付かないので遺族に借金を残すことにもなる。
実はこれが一番重要なポイント(リスク)である。
繰り上げ返済を急ぐ人の中には、
親から「お前が大学に上がる頃には住宅ローンは返し終えた」
などと吹き込まれている人も少なくない。
たしかに戦後、右肩上がりの経済成長を経験した世代では、
完済期間2〇年前後が平均的ともいわれる。
しかしこれには論理的根拠がある。
1965年当時の平均的な住宅価格を4〇〇万円前後とし、
4〇〇万円を金利5・5%、返済期間35年で借りた場合で考えてみよう。
都市勤労者世帯の月収に占める返済負担率は当初31%だが、
1年後には平均月収が約5倍となり、返済負担率は6%に激減する。
高度経済成長の過程にあれば、月収の増加というアクセルのおかげで、
生活水準を変えることなく、誰でも簡単に繰り上げ返済ができたのだ。
しかし、現在のように収入が思うように増えない状況では、
親世代と同じことをするのは到底、不可能である。
まずは教育費や修繕費のめどを立てること。
とくに一戸建てはマンションのように修繕積立金の支出を強いられない分、
計画的な準備が必要になる。
これらの準備が整ってなお、余裕資金があれば、繰り上げ返済を実行すればいい。
目処は500万円〜1,000万円だろう。
もちろん定年以降もローンが残るようなら、いつかは繰り上げ返済が必要だ。
収入が限られている以上、教育、住宅、自動車など、優先順位を付けることも重要。
教育費の一部を子どもに負担させる、という選択肢があってもいい。
「プレジデント2008年9月号115ページに掲載」






